Perp DEXとは 注文の相手と清算を受け持つ仕組み
中央の会社が注文を受けない取引所で、レバレッジをかけた無期限先物の売買はどう成り立つのか。注文板とプールという二つの方式、証拠金が足りなくなったときの清算の順序、資金調達率の水準の違いを、Hyperliquid・dYdX・GMXの仕様と実データの図で説明します。
中央の会社が注文を受けない取引所で、レバレッジをかけた無期限先物の売買はどう成り立つのか。注文板とプールという二つの方式、証拠金が足りなくなったときの清算の順序、資金調達率の水準の違いを、Hyperliquid・dYdX・GMXの仕様と実データの図で説明します。
暗号資産の無期限先物は、会社が運営する取引所だけで売買されているわけではありません。分散型取引所(DEX)と呼ばれる場でも、レバレッジをかけて売り買いできます。無期限先物を扱う DEX を Perp DEX と呼びます。会社が注文を受けて突き合わせるのでないなら、買い注文の相手はどう決まるのでしょうか。損が膨らんだポジションを強制的に閉じるのは、何の仕組みなのでしょうか。
無期限先物は、満期日がなく、決済するまで持ち続けられる先物です。値上がりで利益が出る買いの立場をロング、値下がりで利益が出る売りの立場をショートと呼びます。ロングとショートの間では、決められた時刻ごとに資金調達料が受け払いされます(ファンディングレートとは)。この契約の中身は、会社が運営する中央集権型取引所特定の運営・管理主体が取引所機能を提供する暗号資産取引所を指します。顧客資産の管理や注文照合を運営主体が担う形が一般的です。(CEX)でも Perp DEX でも変わりません。
違うのは、注文の相手を決めること、取引の値段を決めること、担保が足りなくなったポジションを閉じることを、何が受け持つかです。Perp DEX では、ブロックチェーン上で条件どおりに動くプログラム(スマートコントラクト)や、ブロックチェーン上の注文の一覧がこれを受け持ちます。方式には、売りと買いの注文を突き合わせる注文板方式と、資金を集めたプールが取引の相手になるプール方式があります。
ただし、DEX と名乗る場がどこまで分散しているかは一律ではありません。金融庁の暗号資産制度に関するワーキング・グループ資料(2025年10月)は、DEX の範囲について確立した考え方はなく、DEX と称するサービスにも中央集権的な性質が残る場合があるとしています。名前だけでは、注文や資金を何が扱うかは決まりません。
注文板は、売り注文と買い注文を値段ごとに並べた一覧です。注文板方式では、新しい買い注文は、板に並ぶ売り注文のうち安いものから順に成立(約定)します。相手は、その売り注文を出した別の利用者です。同じ値段の注文が複数あれば、先に出た注文が先に成立します。これを価格・時間優先と呼びます。
プール方式には、注文を並べる板がありません。取引に使う資産を出す参加者(流動性提供者)の資金をまとめたプールが、取引する人の相手になります。値段は、外部の価格を取り込む仕組み(オラクル)から受け取ります。取引する人が利益を出せば、その分はプールの価値から払われます。
例えば Hyperliquid の注文板は、すべてブロックチェーン上(オンチェーンブロックチェーン上で実行または記録される行為や取引を指す。公開チェーンでは記録を参照できますが、その内容が読みやすい形で表示されるとは限りません。)にあり、価格・時間優先で注文を突き合わせます(Hyperliquid「Order book」)。dYdX v4 も注文板を使いますが、注文の置き場所が違います。ブロックチェーンを動かす各コンピューター(ノード)が、それぞれ手元のメモリーに注文板を持ちます。短期の注文は、成立するまでそのメモリーの中だけにあり、ブロックチェーンには書き込まれません。長く残す指値注文(成立させる値段を指定した注文)には、ブロックチェーンに書き込む種類もあります(dYdX「Limit Order Book and Matching」)。
プール方式の例は GMX です。GM と GLV と呼ぶプールが取引の相手になり、注文は板や外部の値付け業者ではなく、このプールに対して処理されます。値段にはオラクルの指数価格を使い、取引する人の利益はプールの価値から払われます(GMX Docs「GMX」)。逆に、取引・借入・清算の手数料はプールに入り、資金を出した流動性提供者の収入になります。Arbitrum と Avalanche の上の GMX では、手数料の63%がプールに、37%が運営側のプロトコルに配分されます(GMX Docs「Providing liquidity」)。
注文板方式では、成立した相手の注文がそのまま値段を決めます。プール方式では、値段はオラクルから受け取り、損益の受け払いはプールが引き受けます。値段の出どころと支払いの相手が別々にあるのが、プール方式の特徴です。
GMX の資料は、ETH と USDC のプールを裏付けにした DOGE/USD の市場を例に挙げています。DOGE の値上がりが ETH の値上がりを上回ると、取引する人の含み益がプール内の ETH の価値より速く増え、利益がプールの支払能力を超える場合があります。プールが持つ資産と、取引される銘柄が別だからです。GMX は市場ごとに、プールに対する含み益の比率に上限を設け、上限を超える出金を止める仕組みも設けています。どちらも、プールが払える額を超えて利益が積み上がるのを防ぐためです(GMX Docs「Providing liquidity」)。
証拠金は、取引のために差し入れる担保です。ポジションの大きさは、数量に価格を掛けた契約価値で測ります。レバレッジは、契約価値が証拠金の何倍かを表す倍率です。建てるときに要る証拠金(初期証拠金)は、契約価値をレバレッジで割った額になります。
ポジションを持っている間、口座の価値(証拠金に含み損益を足した額)は価格とともに動きます。口座の価値が、ポジションを保つのに最低限必要な額(維持証拠金)を下回ると、仕組みがポジションを強制的に閉じます。これを清算と呼びます。
例えば Hyperliquid では、清算は次の順に進みます(Hyperliquid「Liquidations」)。
口座の価値が維持証拠金を下回ると、まずポジションを閉じる成行注文を板に出します。10万 USDC を超えるポジションでは、一度に出すのはポジションの20%で、残りは時間をおいて出します。全部または一部が閉じて維持証拠金の条件を満たせば、残った担保は利用者の手元に残ります。
板での清算が成立しないまま、口座の価値が維持証拠金の3分の2を下回ると、清算用の金庫(liquidator vault)がポジションを引き継ぎます。これをバックストップ清算と呼びます。この場合、維持証拠金は利用者に戻りません。清算用の金庫が平均して利益を得るための余裕として使われるためです。
dYdX でも、初期の設定では、口座の価値が維持証拠金を下回ると清算の仕組みがポジションを自動で閉じることがあります。清算注文は、計算された値段を指値にして板の注文と突き合わされます。清算で生じた利益や損失は、清算の損失を埋めるために積み立てた保険基金が引き受けます(dYdX Help Center「Liquidations on dYdX Chain」)。
初期証拠金と維持証拠金の差が、どれだけの値下がりに当たるかを、Hyperliquid の定め方と架空の設定で確かめます。
Hyperliquid では、初期証拠金は契約価値の「1 ÷ 設定したレバレッジ」です(Hyperliquid「Contract specifications」)。維持証拠金は、その銘柄の最大レバレッジで建てたときの初期証拠金の半分で、銘柄により1.25%(最大40倍)から16.7%(最大3倍)です(Hyperliquid「Liquidations」)。利用者が選んだレバレッジではなく、銘柄の最大レバレッジで決まります。
架空の設定として、最大レバレッジ20倍の銘柄を、そのポジション専用の証拠金(分離証拠金)で、5倍で買ったとします。手数料と資金調達料は数えません。
価格が建てたときから だけ下がると、口座の価値は建てたときの契約価値の になります。維持証拠金は、下がった後の契約価値の2.5%です。両者が等しくなる が、清算の始まる値下がりです。
維持証拠金の3分の2は約1.67%です。同じ式で計算すると、バックストップ清算に移る値下がりが出ます。
5倍なら、20%の値下がりで証拠金がちょうどなくなる計算です。清算はその手前、約17.9%の値下がりで始まります。板で閉じられないまま約18.6%まで下がると、清算用の金庫に移ります。二つの水準の差は、価格にして0.7ポイントほどです。
実際には、手数料や資金調達料の受け払いで口座の価値が動くため、清算が始まる値下がりは少し変わります。注文するときに表示される推定の清算価格も、後の節で見るとおり、板の状態によってずれます。
資金調達率が正ならロングがショートに払い、負ならショートがロングに払います。Hyperliquid も同じ向きです。受け払いは利用者どうしの間だけで行われ、取引所は手数料を取りません(Hyperliquid「Funding」)。
違うのは受け払いの間隔です。Binance の BTCUSDT は8時間ごとに受け払いします。Hyperliquid は、8時間分として計算した率の8分の1を1時間ごとに払います。率に含まれる金利部分も、8時間あたり0.01%を1時間あたり0.00125%にして使います。1回あたりの率をそのまま並べると、8時間分と1時間分を比べることになります。そこで Hyperliquid の1時間ごとの率を8倍し、8時間あたりにそろえて、BTC の月平均を並べます。
34か月のすべてで、8時間あたりにそろえた Hyperliquid の月平均は Binance を上回りました。最も高かった2024年3月は、Binance が0.0338%、Hyperliquid が0.0608%です。2024年8月は Binance が0.0013%まで下がった一方、Hyperliquid は0.0104%で、金利部分の0.01%の近くにとどまりました。月平均が負になったのは、Binance が2026年2月〜4月、Hyperliquid は2026年4月だけです。
同じ BTC でも、ロングが持ち続ける費用は場によって違ったことになります。ただし、二つの契約は担保の通貨も違います。Hyperliquid の無期限先物は USDC を担保にし(Hyperliquid「Contract specifications」)、Binance の BTCUSDT は USDT 建てです。条件のそろった同じ契約どうしの比較ではありません。
清算を始めるかどうかの判断には、板の最新の値段そのものではなく、評価用に決めた基準価格(マーク価格)を使うことがあります。一方、清算注文が実際に成立するのは、板に並んでいる注文の値段です。板の注文が薄いときに値段が急に動くと、二つの価格は離れます。
例えば Hyperliquid の清算は、外部の CEX の価格と Hyperliquid の板の状態を組み合わせたマーク価格を使います。値動きが激しいときや、レバレッジの高いポジションでは、マーク価格と板の価格が大きく離れることがあります。注文するときに表示される推定の清算価格も、板の厚みが変われば当たらなくなります(Hyperliquid「Liquidations」)。清算価格は清算が始まる目安で、清算注文が成立する値段そのものではありません。
ここまでの清算は、価格が動いたときに起きることでした。Perp DEX では、取引を受け持つプログラムや担保に使うトークン、利用者が住む国の制度にも、価格とは別のリスクがあります。
GMX の資料は、テストや監査、不具合を見つけた人への報奨金の制度があっても、スマートコントラクトの不具合は起こりうるとしています。異なるブロックチェーンの間で資産を移す仕組み(ブリッジ)を通ったトークンは、そのブリッジの安全性に左右されます。一定の価格に連動するよう設計されたトークンには、連動が外れるリスクがあります(GMX Docs「Providing liquidity」)。
関東財務局「無登録で金融商品取引業等を行う者について(KuCoin)」は、暗号資産を用いた証拠金取引を金融商品取引法上のデリバティブ取引とし、扱う業者に登録を義務付けていると説明しています。差し入れた保証金を超える損失が生じうる取引だとも注意を促しています。金融庁の暗号資産制度に関するワーキング・グループ資料(2025年10月)は、DEX の仕組みの開発・設置が暗号資産交換業に当たるかや、国内で利用者向けの画面を提供する事業者への対応を、検討の論点に挙げています。どちらの資料も、個別の Perp DEX を日本から使うことの法的な扱いまでは示していません。