歪度
分布の左右対称からのずれを表す量。右に裾が長いと正の歪度(右歪み)、左に裾が長いと負の歪度(左歪み)。所得・資産・住宅価格は典型的な右歪み。
歪度分布の左右対称からのずれを表す量。右に裾が長いと正の歪度(右歪み)、左に裾が長いと負の歪度(左歪み)。所得・資産・住宅価格は典型的な右歪み。(skewness)は、分布の左右対称からのずれを表す量です。母集団母集団は、調査や研究で対象とする人・物・出来事の全体です。どの範囲を母集団とするかは問いに応じて定め、そこから一部を取り出したものを標本と呼びます。に対する Pearson の定義では:
平均からの偏差を 3 乗して期待値確率変数が取りうる各値に、その確率を重みとして掛けて足し合わせた値。長期的に試行を繰り返したときの観測平均の収束先を表す。離散型では値と確率の積の総和、連続型では密度関数による積分で定義される。を取り、標準偏差標準偏差は、数値データが平均の周りにどの程度散らばるかを表す尺度で、分散の正の平方根です。分散の分母は、対象データ全体の記述か標本からの推定かによって異なります。の 3 乗で割った無次元量です。データから推定するサンプル歪度では で平均する。
平均と標準偏差が同じでも、歪度が違えば分布の形はまったく違います。下図は標準正規分布(青・歪度 0)と、平均 0・分散分散は、データが平均の周りにどれほど散らばっているかを表す統計量です。各データと平均との差(偏差)を二乗して平均し、元データの単位の二乗で表します。 1 に揃えた対数正規ベースの右歪み分布(赤・歪度約 +1.5)を重ねたものです。
右歪み(赤)の分布は左側に山があり、右側に長い裾を引いています。同じ平均 0・分散 1 を共有しても、典型的な観測値確率変数 X が試行を実行した結果として実際に観測された具体的な数値 x のこと。試行前の「値が定まっていない箱」が X、試行後に箱から出てきた「具体的な数」が x。の位置(最頻値データの中で最も多く出現する値。連続データには適用しにくく、カテゴリ・離散値で力を発揮する代表値。)は左寄り、希少な大きい値が右に長く延びます。所得や資産のように「上位 1% が全体の大きな割合を占める」分布で典型的に観察される形です。
歪度は経済・金融・自然科学の幅広い場面で分布の形を要約する基本指標です。
連続型の右歪み分布では、典型的に次の順序が成立します。
平均が右側の高い値(外れ値的な数)に引きずられる一方、中央値は順位で決まるため右にずれにくく、最頻値は分布のピーク位置だから最も左。stats-01 で扱う所得分布の「6 割以上が平均以下」現象は、median と mean のこのギャップから直接出てきます。ただし離散分布や多峰性分布では成立しないケースがあり、Karl Pearson 以降の文献で広く反例が報告されています(von Hippel 2005)。
サンプル から推定する素朴な歪度は、 が小さいときに母集団歪度の偏った推定量になります。これを補正した Fisher-Pearson 標準化モーメント係数 が広く使われます。
ここで はサンプル標準偏差。 が大きければ補正項 で素朴な式に戻ります。Excel の SKEW() 関数や Python の scipy.stats.skew(..., bias=False) がこの式を採用しています。
歪度は3 次中心化モーメント を で標準化した無次元量です。同様に 超過尖度 は 4 次モーメントを使った量で、裾の重さを測ります。
stats-03 で扱うように、歪度・超過尖度は「データを z スコアに標準化したあとに何乗の平均を取るか」で統一的に整理できます。z 化変換 を使えば、サンプル歪度は
と簡潔に書けます。歪度・尖度はモーメント体系の中で第 3・第 4 標準化モーメントとして位置づけられる、ということです。
正規分布は歪度 0・超過尖度 0 ですが、金融資産リターンの実証分布は強い負の歪度と正の超過尖度(重い裾)をもつことが Mandelbrot 以降繰り返し報告されています(Mandelbrot, The Variation of Certain Speculative Prices, 1963)。正規分布前提のオプション価格付けモデル(Black-Scholes)が市場の実勢から乖離する根本原因がここにあり、現代のリスク管理は歪度・尖度を明示的に取り込むモデル(Cornish-Fisher 展開、GARCH ファミリー、Lévy 過程)にシフトしてきました。