定義
中央値(median)は、データを小さい順に並べ替えた数列 に対し、真ん中に位置する値です。
真ん中の順位を とおいて:
性質
視覚的に見る
8 人のバイト時給 を数直線に並べた図です。7 人は 1,000〜1,300 円に集まり、H さんだけ 4,500 円に飛び出しています。中央値(4 番目と 5 番目の平均 = 1,125 円)は集団のど真ん中に座っているのに対し、平均 1,544 円は H さんに引っ張られて右にズレています。
中央値の縦線は 7 人のクラスターのほぼ中に、平均の縦線は H さんに引きずられてクラスターの右側に出ています。H さんの時給を 45,000 円や 450,000 円に伸ばしても、彼の順位(8 番目)は変わらないので中央値の縦線は動きません。一方で平均の縦線はそのまま右に流されていきます。
実世界での使われ方
中央値は「典型的な人・世帯を 1 つの数で要約したい」場面で広く使われます。
- 世帯所得: 厚生労働省「2024 年 国民生活基礎調査」では 2023 年の全世帯所得の平均が 536 万円、中央値が 410 万円と公表されています。中央値より上を「典型的な」基準にすると、平均では半数以上の世帯が下回ってしまうという所得分布の非対称性が明らかになります。
- 住宅価格・地価: 国土交通省の「不動産価格指数」や、米国の Case-Shiller 指数では中央値ベースの価格指標が併記されます。新築タワーマンションの平均価格は超高額物件に引きずられるため、中央値の方が「普通の人が買える家の価格」に近づきます。
- 賃金統計: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では年齢階級別の所定内給与の中央値(四分位)が公表されます。平均だけでは役員報酬等の上振れに引っ張られるため、中央値が「その年齢の典型的な賃金」の指標として参照されます。
- 金融リスク指標: VaR(Value at Risk)の文脈では、リターン分布の分位数で「信頼水準 95% のとき、5% の確率でこれを超える損失が生じるしきい値(VaR)」が定義されます。平均は分布の歪みに敏感なので、損失の分布側を要約する場面では分位数(中央値はその 50% 点)が使われます。
公的統計が「平均と中央値の両方を併記する」のは慣例で、両者の差そのものが分布の歪みを示すからです。
深掘り
順序統計量としての定式化は L2 以上の補足で、中央値を使う場面では意識しなくて済みます。
順位統計量としての中央値
データ を昇順に並べ替えた値 を 順位統計量(order statistic)と呼びます。中央値は順位統計量のうち真ん中の値で、奇数 なら 、偶数 なら です。順位統計量は元データの 値の大きさを直接使わず、順位の情報だけ を取り出すので、単調変換( 等)に対して順位が保たれる限り中央値は同じ順位の値を指し続けます。
最適化問題としての特徴づけ
中央値は 「 ノルム(絶対偏差の和)を最小化する 1 点」 として等価に定義できます。
これに対し、平均は ノルム(二乗偏差の和)を最小化する点です。
絶対値はすべての偏差を線形に評価するため、外れ値の影響が二乗より弱まります。中央値が外れ値に強いという性質は、この 最小化の構造から直接出てきます。
ロバスト統計量としての中央値
ロバスト統計の用語で breakdown point(崩壊点)は「全体の何割までデータが破壊されても推定量が暴れないか」を表します。平均の breakdown point は (1 点でも無限大に振れると平均も無限大)ですが、中央値の breakdown point は 、つまり半数未満のデータが任意の値に置き換わっても中央値は有限の範囲に留まります。これは外れ値検出やロバスト回帰の理論的基礎で、最小絶対偏差回帰(LAD: Least Absolute Deviation)は中央値を目的関数とする回帰の延長線上にあります。
関連する用語
- 算術平均 — 最小化点。中央値( 最小化)と対をなす
- 最頻値 — 最も頻度の高い値。中央値・平均と合わせて代表値の三兄弟
- 中心傾向 — 平均・中央値・最頻値を包む上位概念
- 順位統計量 — 昇順に並べた値の集合。中央値はその真ん中
- 外れ値 — 中央値がロバストな対象
詳しくは
- stats-01: 平均値と中央値の使い分け — 順位だけを見る性質が「外れ値が動いても動かない」をなぜ生むかを式から