定義
代表値(measures of central tendency)は、データセットの「中心」を 1 つの数で要約する量の総称です。日本語では「中心傾向の指標」とも訳されます。
代表的な 3 つ:
算術平均 : 値そのものを全員で按分(L 2 L^2 L 2 最小化点)
中央値 : 順位だけを見て真ん中(L 1 L^1 L 1 最小化点)
最頻値 : 最も多く出現する値(密度のピーク)
3 つは 横並びの 3 択ではなく、目的と分布の形で適切な指標が変わる 関係にあります。
性質
左右対称な単峰分布 (正規分布など)では平均・中央値 ・最頻値 が一致する
右歪み分布 (所得・株価・住宅価格など)では m o d e < m e d i a n < m e a n \mathrm{mode} < \mathrm{median} < \mathrm{mean} mode < median < mean の順に並ぶ
左歪み分布 (満点に近い試験得点など)では逆順 m e a n < m e d i a n < m o d e \mathrm{mean} < \mathrm{median} < \mathrm{mode} mean < median < mode に並ぶ
「平均と中央値 の差」は分布の歪みの強度を粗く測る指標として実務で使える
視覚的に見る
右歪み分布の代表例として、対数正規分布 L o g N o r m a l ( μ = 0 , σ = 0.7 ) \mathrm{LogNormal}(\mu=0, \sigma=0.7) LogNormal ( μ = 0 , σ = 0.7 ) を描いたものです。3 つの代表値が綺麗にずれて並びます。
右歪み分布での 3 代表値の位置: mode < median < mean mode ≈ 0.61 median = 1.00 mean ≈ 1.28 0 1 2 3 4 5 6 x 0.0 0.2 0.4 0.6 密度 f(x)
最頻値 はピーク位置(最も多く観測される値)、中央値 は左右の確率が 50:50 になる点、平均は確率の重心です。右に長い裾が平均を引っ張るため、3 者は左から mode / median / mean の順に並びます。stats-01 で扱う所得分布の「6 割以上が平均以下」現象は、median と mean のこのギャップが大きい結果です。
実世界での使われ方
「どの代表値で報告するか」は、目的と分布の形によって決まります。公的統計は 複数を併記 することで分布の特性まで伝えるのが標準です。
所得統計 : 厚労省「国民生活基礎調査 」は平均所得と中央値 所得の両方を報告します。2023 年所得では平均 536 万円 vs 中央値 410 万円で、126 126 126 万円のギャップが右歪みの強度を表しています。
住宅市場 : 国土交通省「不動産価格指数 」は地域別の中央値 ベース価格を併記。新築タワーマンションの平均価格は超高額物件に引きずられるため、中央値 の方が「普通の人が買える家の価格」に近づきます。
賃金交渉 : 業界別賃金交渉では中央値 ベースの「春闘相場」が使われます。一部の高額年俸を含む平均ではなく、典型的な賃金水準として中央値 が選ばれます。
マーケティング : 顧客の購買額を分析するとき、平均購買単価は超優良顧客 1 人で大きく動きます。「典型的な顧客像」を捉えたい場面では中央値 、トータル売上を語る場面では平均。
試験スコア : 順序尺度(5 段階評価)のアンケートでは最頻値 が筋。間隔尺度(試験得点)でも分布が偏れば中央値 で報告する方が正直です。
深掘り
一般化平均という統一的な見方は L2 以上の視点です。3 つの代表値を使い分けるだけなら不要です。
統一的視点: 一般化平均とロス関数最小化
3 つの代表値は 「何を最小化するか」 で統一的に整理できます。
代表値 最小化する関数 性質 平均 ∑ ( x i − m ) 2 \sum (x_i - m)^2 ∑ ( x i − m ) 2 (L 2 L^2 L 2 )外れ値 に弱い、微分可能中央値 $\sum x_i - m 最頻値 − ∑ 1 [ x i = m ] -\sum \mathbf{1}[x_i = m] − ∑ 1 [ x i = m ] (L 0 L^0 L 0 )最も鋭い、不連続
最小化する p p p -ノルム ∑ ∣ x i − m ∣ p \sum |x_i - m|^p ∑ ∣ x i − m ∣ p で p p p を変えると、p = 2 p=2 p = 2 で平均、p = 1 p=1 p = 1 で中央値 、p → 0 p \to 0 p → 0 で最頻値 という連続的なファミリーとして見えます。これはロバスト統計学の基礎にあたり、p p p を 1 と 2 の間に置く「Huber 損失」「LAD 回帰」などの設計に繋がります。
重心としての解釈
物理的に見ると、平均は「データ点を等しい質量とみなしたときの重心」です。中央値 は「数直線を真っ二つに割る点」(左半分の質量と右半分の質量が釣り合う点)。最頻値 は「密度の最も高い点」。
これは 大数の法則・期待値の物理的解釈 と直結します。母平均を「観測値の重心」と捉えると、サンプル平均が母平均に収束する大数の法則は「重心が安定する」事実として直感化できます。
多峰性と「代表値の破綻」
3 つの代表値が機能する前提は 単峰性 (山が 1 つ)です。多峰性分布(双峰の身長分布、混合ガウシアン)では、平均はどちらの山にも属さない「空白地帯」を指してしまい、中央値 も同様。多峰性が疑われる場合は、山ごとに分けて要約する (クラスタリング、混合モデル)方が目的に合います。代表値 1 つに圧縮する操作は、分布が単峰だという暗黙の仮定の上に立っています。
関連する用語
算術平均 — L 2 L^2 L 2 最小化、外れ値 に弱い
中央値 — L 1 L^1 L 1 最小化、ロバスト
最頻値 — 密度のピーク、離散・カテゴリで強い
歪度 — 分布の非対称性を測る、代表値の並びを決める
詳しくは
stats-01: 平均値と中央値の使い分け — 同じデータでも目的が違えば代表値が違う構造を、所得分布の実データで