定義
代表値(measures of central tendency)は、データセットの「中心」を 1 つの数で要約する量の総称です。日本語では「中心傾向の指標」とも訳されます。
代表的な 3 つ:
3 つは 横並びの 3 択ではなく、目的と分布の形で適切な指標が変わる 関係にあります。
性質
- 左右対称な単峰分布(正規分布など)では平均・中央値・最頻値が一致する
- 右歪み分布(所得・株価・住宅価格など)では の順に並ぶ
- 左歪み分布(満点に近い試験得点など)では逆順 に並ぶ
- 「平均と中央値の差」は分布の歪みの強度を粗く測る指標として実務で使える
視覚的に見る
右歪み分布の代表例として、対数正規分布 を描いたものです。3 つの代表値が綺麗にずれて並びます。
最頻値はピーク位置(最も多く観測される値)、中央値は左右の確率が 50:50 になる点、平均は確率の重心です。右に長い裾が平均を引っ張るため、3 者は左から mode / median / mean の順に並びます。stats-01 で扱う所得分布の「6 割以上が平均以下」現象は、median と mean のこのギャップが大きい結果です。
実世界での使われ方
「どの代表値で報告するか」は、目的と分布の形によって決まります。公的統計は 複数を併記 することで分布の特性まで伝えるのが標準です。
- 所得統計: 厚労省「国民生活基礎調査」は平均所得と中央値所得の両方を報告します。2023 年所得では平均 536 万円 vs 中央値 410 万円で、 万円のギャップが右歪みの強度を表しています。
- 住宅市場: 国土交通省「不動産価格指数」は地域別の中央値ベース価格を併記。新築タワーマンションの平均価格は超高額物件に引きずられるため、中央値の方が「普通の人が買える家の価格」に近づきます。
- 賃金交渉: 業界別賃金交渉では中央値ベースの「春闘相場」が使われます。一部の高額年俸を含む平均ではなく、典型的な賃金水準として中央値が選ばれます。
- マーケティング: 顧客の購買額を分析するとき、平均購買単価は超優良顧客 1 人で大きく動きます。「典型的な顧客像」を捉えたい場面では中央値、トータル売上を語る場面では平均。
- 試験スコア: 順序尺度(5 段階評価)のアンケートでは最頻値が筋。間隔尺度(試験得点)でも分布が偏れば中央値で報告する方が正直です。
深掘り
一般化平均という統一的な見方は L2 以上の視点です。3 つの代表値を使い分けるだけなら不要です。
統一的視点: 一般化平均とロス関数最小化
3 つの代表値は 「何を最小化するか」 で統一的に整理できます。
最小化する -ノルム で を変えると、 で平均、 で中央値、 で最頻値という連続的なファミリーとして見えます。これはロバスト統計学の基礎にあたり、 を 1 と 2 の間に置く「Huber 損失」「LAD 回帰」などの設計に繋がります。
重心としての解釈
物理的に見ると、平均は「データ点を等しい質量とみなしたときの重心」です。中央値は「数直線を真っ二つに割る点」(左半分の質量と右半分の質量が釣り合う点)。最頻値は「密度の最も高い点」。
これは 大数の法則・期待値の物理的解釈 と直結します。母平均を「観測値の重心」と捉えると、サンプル平均が母平均に収束する大数の法則は「重心が安定する」事実として直感化できます。
多峰性と「代表値の破綻」
3 つの代表値が機能する前提は 単峰性(山が 1 つ)です。多峰性分布(双峰の身長分布、混合ガウシアン)では、平均はどちらの山にも属さない「空白地帯」を指してしまい、中央値も同様。多峰性が疑われる場合は、山ごとに分けて要約する(クラスタリング、混合モデル)方が目的に合います。代表値 1 つに圧縮する操作は、分布が単峰だという暗黙の仮定の上に立っています。
関連する用語
詳しくは
- stats-01: 平均値と中央値の使い分け — 同じデータでも目的が違えば代表値が違う構造を、所得分布の実データで