定義
歪度(skewness)は、分布の左右対称からのずれを表す量です。母集団に対する Pearson の定義では:
平均からの偏差を 3 乗して期待値を取り、標準偏差の 3 乗で割った無次元量です。データから推定するサンプル歪度では で平均する。
- (正の歪度、右歪み): 右側に裾が長い分布。例: 所得・資産・住宅価格・株式リターン
- : 左右対称(正規分布など)
- (負の歪度、左歪み): 左側に裾が長い分布
性質
- 3 乗が符号を保つ: 偏差を 3 乗するので、 の側は負、 の側は正のまま和に寄与する。右に大きく外れる点は正の寄与、左に大きく外れる点は負の寄与
- 正規分布で : 左右対称な分布はすべて歪度 0 だが、逆は成立しない(多峰の対称分布も歪度 0)
- 3 乗が外れ値の影響を増幅: 偏差の大きい点が立方で効くため、サンプル歪度は外れ値に敏感
視覚的に見る
平均と標準偏差が同じでも、歪度が違えば分布の形はまったく違います。下図は標準正規分布(対称、歪度 0)と、平均・分散を合わせた対数正規ベースの右歪み分布(歪度 +1.5 相当)を重ねたものです。
右歪み(赤)の分布は左側に山があり、右側に長い裾を引いています。同じ平均 0 を共有しても、典型的な観測値の位置(最頻値)は左寄り、希少な大きい値が右に長く延びる。所得や資産のように「上位 1% が全体の大きな割合を占める」分布で典型的に観察される形です。
実世界での使われ方
歪度は経済・金融・自然科学の幅広い場面で分布の形を要約する基本指標です。
- 所得・資産分布: 厚労省「国民生活基礎調査」が公表する世帯所得分布は強い正の歪度をもちます。2023 年データでは平均 536 万円・中央値 410 万円で、その差 126 万円が右歪みの大きさを示します。
- 株式リターンの非対称性: 個別株のリターン分布は負の歪度をもつことが多いと報告されています(Albuquerque, Review of Financial Studies 2012)。これは「急激な暴落」が「同じ規模の急騰」より頻繁に発生する非対称性を表し、リスク管理で重要な観察対象。
- 保険損失分布: 自動車保険・地震保険の損失額分布は強い正の歪度を示します。少数の超大型損失(東日本大震災級の地震、大規模火災)が平均を引き上げ、Tail Value at Risk(TVaR)でリスク評価する必要が出てくる根拠になります。
- 企業規模分布: 売上高・従業員数・時価総額は強い正の歪度(Pareto 分布近似)。経済産業省「経済センサス活動調査」では上位 1% の大企業が全体の売上の 4 割以上を占める構造が報告されています。
- 時間統計: ウェブアクセスのレイテンシ、サーバーの応答時間も右歪み。Google の SRE 本では p50(中央値)・p95・p99 を併記して、ユーザー体験のテール側を独立に観察する慣行が標準化されました(Beyer et al., Site Reliability Engineering, O'Reilly 2016)。
深掘り
右歪みで代表値が並ぶ順序
連続型の右歪み分布では、典型的に次の順序が成立します。
平均が右側の高い値(外れ値的な数)に引きずられる一方、中央値は順位で決まるため右にずれにくく、最頻値は分布のピーク位置だから最も左。stats-01 で扱う所得分布の「6 割以上が平均以下」現象は、median と mean のこのギャップから直接出てきます。ただし離散分布や多峰性分布では成立しないケースがあり、Karl Pearson 以降の文献で広く反例が報告されています(von Hippel 2005)。
サンプル歪度の偏り補正
サンプル から推定する素朴な歪度は、 が小さいときに母集団歪度の偏った推定量になります。これを補正した Fisher-Pearson 標準化モーメント係数 が広く使われます。
ここで はサンプル標準偏差。 が大きければ補正項 で素朴な式に戻ります。Excel の SKEW() 関数や Python の scipy.stats.skew(..., bias=False) がこの式を採用しています。
中心化モーメントとの接続
歪度は3 次中心化モーメント を で標準化した無次元量です。同様に 超過尖度 は 4 次モーメントを使った量で、裾の重さを測ります。
stats-03 で扱うように、歪度・超過尖度は「データを z スコアに標準化したあとに何乗の平均を取るか」で統一的に整理できます。z 化変換 を使えば、サンプル歪度は
と簡潔に書けます。歪度・尖度はモーメント体系の中で第 3・第 4 標準化モーメントとして位置づけられる、ということです。
重い裾と現代金融
正規分布は歪度 0・超過尖度 0 ですが、金融資産リターンの実証分布は強い負の歪度と正の超過尖度(重い裾)をもつことが Mandelbrot 以降繰り返し報告されています(Mandelbrot, The Variation of Certain Speculative Prices, 1963)。正規分布前提のオプション価格付けモデル(Black-Scholes)が市場の実勢から乖離する根本原因がここにあり、現代のリスク管理は歪度・尖度を明示的に取り込むモデル(Cornish-Fisher 展開、GARCH ファミリー、Lévy 過程)にシフトしてきました。
関連する用語
詳しくは
- stats-01: 平均値と中央値の使い分け — 右歪みで「6 割以上が平均以下」が普通になる構造