定義
算術平均(arithmetic mean)は、データ x1,x2,…,xn に対して次で定義される代表値です。
ここで重要なのは「全員を等しい重み 1/n で扱う」という構造です。xˉ は「エックスバー」と読みます。
性質
- 線形性: あるデータ点が Δx 増えると、平均は Δx/n だけ動く
- 外れ値に弱い: 1 人の極端な値が結果を大きく動かす(中央値 と対比される)
- 右歪み分布では、平均が中央値より右にずれるのが典型(単峰の連続分布でよく成り立つ経験則で、離散分布や多峰分布では逆転する例外もある)
- L2 最小化点: argminm∑(xi−m)2 がちょうど xˉ になる
視覚的に見る
8 人のバイト時給 (1,000, 1,050, 1,050, 1,100, 1,150, 1,200, 1,300, 4,500) で、H さんだけが 4,500 円に飛び出している分布です。平均 1,544 円は、全 8 人の値をそれぞれ重み 1/8=0.125 で按分したものなので、H さんの 4,500 円が 4,500×0.125=562.5 円ぶん平均を持ち上げています。
横軸は時給(円)で、縦の位置に意味はない(8 人を一列に並べただけ)。青緑の点が各人の時給、赤い破線が平均 1,544 円、青い実線が中央値 1,125 円。右端に離れた点が H さん(4,500 円)で、平均の破線がデータの密集帯から右へ引かれているのが見て取れる。
中央値 1,125 円とのギャップは 419 円。H さんの値が大きくなるほど、このギャップは線形に拡大します。たとえば H が 45,000 円になると平均は約 6,606 円まで跳ね上がりますが、中央値は H の順位(8 番目)が変わらない限り 1,125 円のままです。
実世界での使われ方
算術平均は「総量を頭割りした基準値」を求めたい場面で使われます。
- GDP・1 人あたり所得: 内閣府「国民経済計算(GDP 統計)」では 1 人あたり名目 GDP が算術平均ベースで公表されています。総額を人口で割るので、上下の偏りには感度が高い指標です。
- 消費者物価指数(CPI): 総務省統計局「消費者物価指数」は、品目別の価格指数を加重平均(家計支出ウェイト)で集計する変種です。基準時点 100 のラスパイレス指数で算術平均の応用形。
- ポートフォリオの期待リターン: 各銘柄のリターン ri と保有比率 wi から ∑wiri で期待リターンを計算します。これは加重平均で、wi=1/n なら普通の算術平均と同じ構造。
- 試験の合計点: 高校の中間試験 5 教科の合計点を 5 で割った 平均点は典型的な算術平均。各教科が等しい重みで扱われる前提を共有しています。
公的統計が「平均と中央値の両方を報告する」場合、両者の差そのものが分布の歪みの強度を測ります。
深掘り
期待値・ノルム最小化・3種の平均の関係は L2 以上の視点です。算術平均の定義と外れ値への弱さだけなら不要です。
▶計算発展(L2以上): 期待値・L²最小化・算術/幾何/調和
期待値としての算術平均
確率変数 X の 期待値 E[X] は連続版・離散版いずれの場合も「重みつき平均」の概念です。n 個のサンプル x1,…,xn から計算する算術平均 xˉ は、経験分布(各点に確率 1/n を置いた離散分布)の期待値そのもの。n→∞ で母平均 μ=E[X] に収束する(大数の法則)という関係が、推測統計の基礎を支えています。
L2 ノルム最小化としての特徴づけ
算術平均は「二乗誤差の和を最小にする 1 点」として等価に定義できます。
この性質は最小二乗法(OLS 回帰、PCA、リッジ回帰など)の基礎になっています。線形回帰の解は「平均が定数項を、共分散が傾きを決める」構造をもち、すべて二乗誤差最小化から導かれます。
算術・幾何・調和平均
平均には他にも幾何平均 (∏xi)1/n、調和平均 n/∑(1/xi) があり、すべて 正の値に対し 次の不等式(算術-幾何-調和平均不等式)を満たします。
等号成立は全 xi が等しいときのみ。複利・成長率の平均 には幾何平均、速度・密度の平均 には調和平均が目的に合います。「平均」と一括りにしないことが、応用での誤用を防ぎます。
関連する用語
- 中央値 — L1 最小化点。算術平均(L2 最小化)と対をなす
- 最頻値 — 最も頻度の高い値
- 中心傾向 — 平均・中央値・最頻値を包む上位概念
- 外れ値 — 算術平均が最も弱い対象
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