定義
算術平均(arithmetic mean)は、データ に対して次で定義される代表値です。
ここで重要なのは「全員を等しい重み で扱う」という構造です。 は「エックスバー」と読みます。
性質
- 線形性: あるデータ点が 増えると、平均は だけ動く
- 外れ値に弱い: 1 人の極端な値が結果を大きく動かす(中央値 と対比される)
- 右歪み分布では、平均は中央値より右にずれる
- 最小化点: がちょうど になる
視覚的に見る
8 人のバイト時給 で、H さんだけが 4,500 円に飛び出している分布です。平均 1,544 円は、全 8 人の値をそれぞれ重み で按分したものなので、H さんの 4,500 円が 円ぶん平均を持ち上げています。
横軸は時給(円)で、縦の位置に意味はない(8 人を一列に並べただけ)。青緑の点が各人の時給、赤い破線が平均 1,544 円、青い実線が中央値 1,125 円。右端に離れた点が H さん(4,500 円)で、平均の破線がデータの密集帯から右へ引かれているのが見て取れる。
中央値 1,125 円とのギャップは 419 円。H さんの値が大きくなるほど、このギャップは線形に拡大します。たとえば H が 45,000 円になると平均は約 6,606 円まで跳ね上がりますが、中央値は H の順位(8 番目)が変わらない限り 1,125 円のままです。
実世界での使われ方
算術平均は「総量を頭割りした基準値」を求めたい場面で使われます。
- GDP・1 人あたり所得: 内閣府「国民経済計算(GDP 統計)」では 1 人あたり名目 GDP が算術平均ベースで公表されています。総額を人口で割るので、上下の偏りには感度が高い指標です。
- 消費者物価指数(CPI): 総務省統計局「消費者物価指数」は、品目別の価格指数を加重平均(家計支出ウェイト)で集計する変種です。基準時点 100 のラスパイレス指数で算術平均の応用形。
- ポートフォリオの期待リターン: 各銘柄のリターン と保有比率 から で期待リターンを計算します。これは加重平均で、 なら普通の算術平均と同じ構造。
- 試験の合計点: 高校の中間試験 5 教科の合計点を 5 で割った 平均点は典型的な算術平均。各教科が等しい重みで扱われる前提を共有しています。
公的統計が「平均と中央値の両方を報告する」場合、両者の差そのものが分布の歪みの強度を測ります。
深掘り
期待値としての算術平均
確率変数 の 期待値 は連続版・離散版いずれの場合も「重みつき平均」の概念です。 個のサンプル から計算する算術平均 は、経験分布(各点に確率 を置いた離散分布)の期待値そのもの。 で母平均 に収束する(大数の法則)という関係が、推測統計の基礎を支えています。
ノルム最小化としての特徴づけ
算術平均は「二乗誤差の和を最小にする 1 点」として等価に定義できます。
この性質は最小二乗法(OLS 回帰、PCA、リッジ回帰など)の基礎になっています。線形回帰の解は「平均が定数項を、共分散が傾きを決める」構造をもち、すべて二乗誤差最小化から導かれます。
算術・幾何・調和平均
平均には他にも幾何平均 、調和平均 があり、すべて 正の値に対し 次の不等式(算術-幾何-調和平均不等式)を満たします。
等号成立は全 が等しいときのみ。複利・成長率の平均 には幾何平均、速度・密度の平均 には調和平均が目的に合います。「平均」と一括りにしないことが、応用での誤用を防ぎます。
関連する用語
詳しくは
- stats-01: 平均値と中央値の使い分け — 外れ値が平均に与える影響を構造的に解説