Simpson のパラドックス
条件付き独立性の対比として理解できるのが Simpson のパラドックスです。「治療 A が全患者で治療 B より治癒率が高いが、軽症・重症それぞれで分けると治療 B の方が高い」という現象で、これはデータの矛盾ではなく、重症度 C が交絡として働いた結果です。重症患者ほど治療 A を受ける傾向があり、かつ重症患者全体の治癒率が低い。この 2 つが重なると、全体での集計が逆転します。C(重症度)で条件付けて初めて正しい関係が見えます。これは、無条件で見た集計結果(T の効果の方向)が、C で条件付けた後の結果と符号さえ逆になりうることを示しています。条件付けなしの集計が条件付き後の構造と根本的に食い違いうる。これが、無条件の関係と条件付きの関係が別物であることの最も極端な実例です。
ナイーブベイズ分類の仮定としての条件付き独立性
ナイーブベイズ分類器は、クラスラベル Y が与えられたもとで、特徴量 X1,X2,…,Xn が条件付き独立と仮定します。記号 ∏ は積を表します。
この仮定が「ナイーブ(素朴)」と呼ばれるのは、実際には特徴量間に相関が残ることが多いためです。しかし分類性能が依然として高いことが経験的に示されており、計算コストと精度のバランスから第一候補として選ばれます。先述の「クラス Y のもとで各単語の出現は独立」という仮定が、まさにこの式の n 特徴量版です。単語数が数万になっても、∏i=1nP(Xi∣Y) の形を保てば計算量が爆発しません。
グラフィカルモデルと d-separation
因果ダイアグラム(有向非巡回グラフ)で表現された変数間の関係から、どのペアが条件付き独立になるかを判定する基準が d-separation(有向分離)です。3 種類のパス構造で挙動が異なります。chain A→C→B と fork A←C→B は C で条件付けると A と B が独立になります(fork が今節の「雨・傘・コート」の例です)。一方、collider A→C←B は C で条件付けると逆に A と B が独立でなくなります。collider の C に条件付けることで、A と B の情報が C を通じて流れ込む経路が開くためです。条件付き独立性は因果推論の構造を読み解く核となる概念で、「どの変数で条件付ければ因果効果を識別できるか」という問いはすべてここから始まります。
無条件で A⊥⊥B が成立していても、C で条件付けると A⊥⊥B∣C が崩れることがあります。逆に A⊥⊥B∣C が成立しても、C を無視した全体では A と B が強く相関することがあります。Simpson のパラドックスはその具体例です。無条件独立と条件付き独立は双方向に非含意で、一方から他方を推論することはできません。